現代農業2001年3月号 小力技術で、経費はどのくらい下がるのか?
"緑肥稲作で、 いったいいくら下がるか?
――福島県原町市・渡部泰之さんの場合
緑肥で、除草と元肥一発
自然の宿 くすの木び外観
渡部さんの緑肥仕込みは極浅。ほとんど倒してるだけ (赤松富仁撮影)
緑肥で除草と元肥一発施肥を兼ねる「緑肥稲作」。福島県の渡部泰之さんが、今一番注目しているのが、この緑肥を使ったやり方だ。田んぼでとれたものを田んぼに戻す究極の「ただどり稲作」をねらう渡部さんには、今のところ緑肥が一番、実用性が高そうだ(2000年10月号・11月号参照)。
渡部さんの場合の緑肥稲作を、コスト計算してみたら……。
緑肥のタネ代+グアノリン酸代
渡部さんの場合、秋、刈り取りが終わったらまず、生の米ヌカを100kgまく。米ヌカは、コイン精米機もあるし、他の人の精米も請け負ったりするので、いくらでもある。これは無料。
次に、緑肥のタネを播く。渡部さんの場合、イタリアンのサクラワセ(雪印種苗)を使うが、昨年は10a2kg、今年は3kg播いてみた。仲間で交渉してkg550円で買えるようになったので、3kgとして10a1650円。
緑肥のタネは単独では播きにくいので、一緒に米ヌカボカシを混ぜてブロードキャスタで播いてしまう。米ヌカボカシはグアノリン酸入りで、夏の間につくっておいたもの。全体90kgのうち、グアノは40kgくらい入っている。2,800円。
こうして冬の間に緑肥のためにやった肥料は、そのまま春になったらイネの元肥となっていく。春先にもう一度40kgのグアノが入ったボカシをやって、今年は田植えの30日前にサクラワセをすき込むつもりだ。それで自然にへの字肥効になる。有機元肥一発で、追肥なし。
すき込んで水を入れれば、米ヌカ除草と同じように田がわいて、有機酸が出て、除草ができてしまう(場合によっては米ヌカ併用)。だから除草剤も農薬もなし。植えたらもう、あとは何もしないラクラク稲作なのだ。(かこみ4 渡部さんの緑肥稲作のコスト)
スズメノテッポウ緑肥で究極の「ただどり」へ
以前、渡部さんがV字稲作でガンガン肥料をやり、バリバリ農薬をかけていた頃は、肥料代、農薬代、除草剤代、全部合わせて10a当たり4万円とか5万円とかかかっていた。作業もきつくて、年をとってきた今では、とても続けられない農業だ。
かといって、「時代は有機農業だ」と有機質肥料を買っていたのでは、これはたいへんだ。有機質肥料は高い。それに油粕やダイズ粕はみな輸入品で、わざわざ外から持ち込むものだ。田んぼの自然循環をうまく生かしたやり方でないと、かえって労力もコストもかかる。相当に米を高く売らない限り、赤字になってしまうだろう。自然循環を生かしてコストを下げるには、冬にその場で育つ緑肥をどう使いこなすか、あとは副産物である米ヌカなどを有効利用することだ。
渡部さんは、緑肥のタネも、いずれは播かなくてすむようにしたいと思っている。スズメノテッポウがたくさん生える田があるので、そこは秋から起こさず、施肥もせずにただ自然に任せて生やしてある。少しでも種を落とさせてから緑肥にするつもりだ。そう一朝一夕には増えてくれないので、全部の田でやれるようになるのはいつの日かわからないが、これこそ究極の「ただどり」だ。
牛も鶏も豚も、いろいろなものが貿易自由化になって、かつて規模拡大で表彰されたような経営の人が、借金で次々倒産したりしている。今残っている人は、かねてより自給的経営を大事にしてきたような人だ。米も自由化。農場内自給を大事に、自然循環を生かすような経営が強いし、きっといつまでも残っていける。――渡部さんは今、そんなことを考えている。
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