in 長岡技術科学大学 廃棄物・有害物 管理工学研究室
下水汚泥焼却灰を溶融してできるスラグを肥料とすることの利点。
下水によって失われるリン資源の回収、再資源化を検討する論文要旨。
以下、抜粋
リンの循環を目指した 下水汚泥焼却灰のリン肥料化実験
修士2年:酒巻尭史 修士1年:和泉亮 学部4年:藤井亮太
1.本研究の背景
本研究で取り扱う問題は、大きく二つの社会的背景から成る。それは、
①リン資源の枯渇
日本はリン原料としてリン鉱石の輸入しており、そのほぼ100%を海外からの輸入に頼っている。そのため、リン鉱石の輸入量や輸入価格は海外の情勢に大きく影響され、変動している。
図1を見てみると、1998年ごろおよび2005年以降からリン鉱石の価格が上昇している。1998年は、アメリカが国策としてリン鉱石の輸出規制を行った年、2006年は中国からの輸入量が減少した年である。その結果リン鉱石の輸入化かは上昇し、日本の肥料メーカーや農家はマイナスの影響を受けている。
このような背景を基に、今後のリンの安定確保のためにも、循環利用技術が求められている。
②下水汚泥焼却灰の大量発生
日本はリン鉱石を年間約70万トン(平成16年度)輸入している。これはP2O5として約20万トンに相当する(図2)。
また一方で、下水汚泥焼却灰は年間約30万トン(平成16年度)が埋め立てられているが、これはP2O5として約9万トンである(図2)。
つまり、日本ではリン鉱石の約半分のP2O5が下水汚泥焼却灰として発生しているわけである。これに着目し、下水汚泥焼却灰の有効利用技術の開発が進められている。
2.~リン資源の循環利用を目指して~ 本研究の目的
日本では輸入したリン鉱石の約8割が肥料用途に使われている。
ここで、リン鉱石の約半分のP2O5を含む下水汚泥焼却灰を肥料として再利用できれば、資源小国である日本のリン資源の安定確保につながる。更に、リンは以下のようなフローを経て循環利用が構築されることになる。
下水汚泥焼却灰 → 農作物 → ヒト → 下水汚泥焼却灰
本研究においても、下水汚泥焼却灰からリン肥料を作成し、その実証試験を通して、リン循環利用技術の確立を目的としている。
3.本研究での取り組み
本研究がこれまでに取り組んできた下水汚泥焼却灰のリン肥料化技術を図3に示す。
3-1.スラグ肥料
下水汚泥焼却灰に副原料を添加し、溶融処理をすることで得られるスラグ状の肥料のこと。
市販の熔成リン肥の製造方法と同じプロセスで作られる(図4)。そのため、スラグ肥料は熔成リン肥と同等の効果を持つリン肥料と考えられる。なお、市販溶性リン肥は副原料の代わりに蛇紋岩という鉱石を混合して作られている。
3-2.回収リン酸塩
回収リン酸塩は、下水汚泥焼却灰からリン酸を抽出、消石灰で析出させることで得られる。回収リン酸塩の主成分はリン鉱石と同じリン酸カルシウム(Ca3(PO4)2)であるため、リン鉱石の代替物として肥料原料として利用が可能と考えられる。
3-3.畑栽培
本研究では“スラグ肥料”、“回収リン酸塩”の作成条件範囲等を実験で明らかにしてきたが、それだけでなく、作成したスラグ肥料に関しては、実際に畑に施肥して農作物の栽培試験を行ってきた。そして、スラグ肥料の実土壌への影響や農作物への影響を明らかにしてきた。
4.これまでに明らかになっていること ・ 今後の展望
4-1.スラグ肥料
実土壌にスラグ肥料を施肥し農作物を栽培した。そして、土壌分析、植物体成分分析を行った結果、土壌の重金属含有量基準、食品の重金属含有量基準をクリアしていることが確認できた。
つまり、スラグ肥料はリン肥料として有効利用可能である、ということがわかっている。
4-2.回収リン酸塩
回収リン酸塩の肥料原料としての可能性を検討している。今後、畑での実証試験も行っていく予定である。そして、回収リン酸塩作成技術を適用可能な焼却灰の条件を明確にし、将来広く技術を普及させることを目的とする。
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