農業技術の匠/地域で学び継承・普及を
in 日本農業新聞
農水省は、生産現場で優れた技術を自ら開発・改良し、地域の活性化に貢献した農業者28人(1グループ含む)を、新たに「農業技術の匠(たくみ)」として選定した。これらの先進農家に学び、その技術を引き続き地域でしっかり受け継ぐことが大切だ。
「農業技術の匠」を作物別に見ると、土地利用型作物7人、果樹8人、野菜6人、花き5人、茶1人、水稲・野菜の複合栽培1人だ。技術分野別には、有機栽培・特別栽培の技術体系8人、機械・設備などの改良6人、剪定(せんてい)・仕立て方法5人、育種から栽培までの技術体系2人、そのほか8人と、多岐にわたっている。現場に立脚し、農政改革を先導する技術開発が少なくない。
北海道の片岡弘正さん(江別麦の会会長)は、降雪前に春まき小麦「ハルユタカ」をまき、翌年の夏に収穫する初冬まき栽培の技術体系を確立した。山形県の菅原孝明さん(三川地域有機農業推進協議会)は、紙マルチ田植えやアイガモ農法に深水管理を組み合わせた水稲雑草抑制技術を実証した。新潟県の今井守夫さん(JA魚沼みなみ有機米部会)は、稲の成苗ポット移植で移植時期を遅らせ、高温登熟を回避する生産体系と、マガモ、米ぬか、機械除草を組み合わせた環境負荷軽減型有機無農薬栽培体系を確立した。
園芸関係でも、目を引く技術がある。栃木県の大山寛さん(JAしもつけ栃木トマト部会顧問)は、軽量台車などを独自に開発し、高軒高ハウスによるトマトの土耕栽培でハイワイヤ誘引技術を開発した。
香川県の湯谷孝行さん(JA香川県中央地区本部ハウスみかん部会)は、1970年に初の「ミカン加温栽培」に成功した。現在80歳の岐阜県の塚本實さん(東美濃栗振興協議会技術顧問)は、植え付け後15年以上たった栗の樹高を剪定で低くすることで、高品質・安定生産・省力化を実現する超低樹高栽培を発案し、特産「恵那栗」の生産拡大に貢献した。
同省の研究者だった西尾敏彦氏は、著書『農業技術を創(つく)った人たち』の中で、「技術開発はわが国の農を切り開く先陣を切ってきた。だが実際に農業の歴史を動かした技術革新は、現場の農家や農家と交わりの深い出先の研究者仲間の方が大きな役割を果たしてきた」と述べ、実用的な技術を工夫し、地域に密着した研究と普及に汗を流した農家、研究者、指導員を高く評価している。
「匠」選定に当たっては、農家を支援し、地域ぐるみで技術の普及に努める現場指導関係者の存在を忘れてはならない。
「匠」の選定は農業者の励みになる。特色ある現場創造型の農業技術を新たな地域資源として、農水省には今後もさまざまな角度から支援を望みたい。
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