ブログランキングに参加しています。応援よろしくお願いします! ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村 環境ブログ 有機・オーガニックへ

2009年8月16日日曜日

急騰を続けるごまの国際価格

急騰を続けるごまの国際価格
in 社団法人 日本植物油協会

大豆の国際価格が高騰していることについては、先にお知らせしました。中国の国内経済事情により突然に購入契約を破棄する事態を受けて相場が少し静まっていますが、依然として高値基調にあります。2004/05年の世界の大豆生産が大幅に増加するというアメリカ農務省の予測を受けても、相場の低下は見られません。これからは、アメリカの作付けと天候が国際価格を支配していくことになりますので、私たちも動向を見守っているところです。

ところで、大豆の陰に隠れるように“ごま”の国際価格が急上昇を続けています。この1年間で価格はおおよそ80%も上昇し、高値に張り付いています。そして、今後も上昇することが予想されています。

ごまは、油の原料だけではなく、優れた風味でさまざまな日本の料理にとけこみ、食卓で愛され、その栄養機能が注目を集めています。

日本の食生活に不可欠な“ごま”が、いまピンチに立っています。製油業界はじめごまを利用する多くの食品業界は、消費者の皆様に、どのようにすれば“ごま製品”を安定してお届けできるのか思案に暮れているところです。


でも、ごまの国際価格が高騰していることは余り知られていません。それは、大豆や主な穀物には、シカゴ商品取引所という国際価格の指標となる市場が存在していますが、ごまにはそれがありません。だから、ごまの国際需給や価格に関する情報が乏しいのです。 

では、何故そのような市場が存在しないのでしょうか。
spacer

■ 1 ■ 海外に100%供給を依存する“ごま”

30カ国と52カ国、これが何を意味するのかお分かりでしょうか? 30カ国は、平成15年(2003年)に日本がごまを輸入した国の数、52カ国は、この10年間に日本がごまを輸入したことのある国の数です。食品の原材料となる農産物の貿易は、一般に輸出国の数が限られているという特徴がありますが、ごまについては、商社のみなさんが世界中を駆けめぐって、私たちの生活に不可欠なごまを集めているのです。

日本人の食生活に欠くことのできないごまは、かっては日本国内で広く栽培されていましたが、いまでは統計に記録されるだけの生産がない状態になっています。収量が少なく採算性が低いことや栽培上の難しさがあることから、より収益性の高い作物へ生産転換が行われたことによるものです。いまでは、世界最大の輸入国となりました。日本の食文化が、外国によって支えられている典型的な事例となっています。

ごまは、幹に鞘を形成しその中で種子である“ごま”が成熟します。この鞘の形成と成熟は下の方の鞘から順次上の鞘へと進み、上の鞘が熟する頃には下の方の鞘ははじけて、種子が散乱するという特徴があります。このため、下の鞘がはじける直前に収穫することが必要になりますが、当然、上の方の種子は成熟不十分という状態になります。したがって、こまめに農場を見回って収穫時期を判断することが必要となり、機械化農業で対応することが難しい作物です。

このため、世界でもごまの主な生産国は、機械化農業が進んだ先進国ではなく、発展途上国となっています。冒頭の30カ、52カ国も、ほとんどが発展途上国です。大豆が先進国の大規模機械化農業により生産されていることに比べ、大きな相違点です。
spacer

■ 2 ■ 不安定な供給

大豆の場合、供給力を持った国が世界に4カ国しかないことが供給を不安定にする要素になっていることをお伝えしました。それでは、供給国が数多あるごまは供給が安定しているのでしょうか?

答えはノーです。この10年間の供給国が52カ国にものぼるということは、安定した供給先が少なく、多くの生産国からかき集めてこなければ、必要な数量が確保できないことを示しています。

Oil World誌によれば、世界のごま生産量はおおよそ300万トンに過ぎません。ごまの産地は、熱帯から亜熱帯に属する地域に概ね集中しています。これらの地域は天候変動が大きく、干ばつがあるかと思えば、雨害で生産が激減する事態も発生します。それぞれの国の生産量も、それほど多いものではありませんが、中国、インド、ミャンマー及びスーダンの4カ国で、世界生産量のおおよそ3分の2を占めています(表1参照)。このため、これら4カ国の生産変動が、国際需給に大きい影響を及ぼします。また、大豆の場合は大生産国が大輸出国という関係にありますが、ごまの場合には大生産国でも輸出余力が小さく、このため、生産量は少量であっても貿易市場に大きい影響を及ぼす国があります。

したがって、供給の多くを安心して任せることが非常に困難で、必要量を確保するためには多くの国と取引をしなければならず、また、品質と安全の確保のため慎重な商品チェックが必要となっています。
世界の主要なごま生産国と生産量の推移
spacer

■ 3 ■ 輸出国の特徴

世界の市場で取り引きされるごまの数量は70万トン前後で推移してきました。主な輸出国は表2のとおり、スーダンとインドがほぼ均衡して全体の5割程度を占めていますが、それ以外の輸出国の輸出数量は一桁少なく、数多くの国により輸出市場が形成されていることがわかります。

しかし、スーダンの生産量はインドの2分の1程度に過ぎません。また、表1と比較して、生産量が多くても輸出量が少なく、逆に生産量は少ないものの輸出国順位では上位にランクされる国もあります。大豆のように、大生産国=大輸出国という関係にはないことがわかります。

主な国別に見たごま輸出量の推移

この関係をもう少し調べてみましょう。表3に、主な国ごとの生産量と輸出量の関係がどのようになっているか示しています。

世界の生産量に占める輸出量の割合は、過去5年(1998/99~2002/03年)平均で23.8%になりますので、これを大幅に上回る国を輸出に特化、つまり輸出を目的として生産を行う国、下回る国を主に国内消費のために生産している国に分けることができます。その結果、輸出向け生産に特化した国が、アフリカと中南米に集中していることが特徴です。ごまが、有力な輸出商品として外貨を稼ぎ出していることをうかがい知ることができます。

他方、世界1,2位の生産国である中国とインドは、輸出国としても重要な地位にありますが、国内需要が多く輸出余力が大きいという状況にないことがわかります。そして、このことが、ごまの国際需給逼迫をもたらした大きい要因となっています。

主な国のごま生産量と輸出量の比較

■ 4 ■ 中国の大量輸入で、国際需給は一気に逼迫へ

国際市場におけるごまの供給が、輸出に特化したアフリカ及び中南米の国々によって支えられていることが分かりましたが、それでは輸入はどのようになっているのでしょうか。 

表4は、世界の主な輸入国と輸入数量の推移を示しています。ごまの輸入国は極めて多いのですが、日本が群を抜いた輸入国で、韓国とエジプトが続いていました。

 しかし、2003年に異変が生じ、それまで輸出国であった中国が一気に大量輸入国に転じました。表1に示しましたとおり、2003/04年に中国のごま生産は洪水被害などにより前年より20%減少したと見込まれています。しかし、実際にはもっと大幅な減産であったとの情報もあります。そのことが、一気に6万5千トンものごま輸入となって現れました。世界の貿易量が70万トン程度であるところに、ほぼ10%の追加需要が生じたわけです。2002/03年のインドの不作によってタイトになっていた国際需給が、一層逼迫度を高めることとなりました。中国は、さらに2004年1~4月のわずか4ヶ月間で、これを上回る7万トンのごまを輸入しました。このペースで輸入が進めば日本を凌駕する輸入国になることも想定されます。この先、中国がどれだけのごまを国際市場から調達するのか見通しは立ちませんが、その数量次第では、日本に必要なごまの確保が困難となるおそれさえ懸念されるところです。

主な国別に見たごまの輸入量の推移


■ 5 ■ 日本のごま輸入

日本は年間15万トン前後のごまを輸入し、世界最大の輸入国です。このうち、約8万5千トンが搾油用として胡麻油の原料となっています(表5参照)。

輸入先については、中国が最大で、ナイジェリア、ブルキナファソ及びタンザニアのアフリカ諸国が安定した供給国となっています。スーダンやミャンマーも重要な供給国ですが、政情不安からしばしば輸出禁止措置が発動されるため、変動が大きくなっています。

 アフリカの諸国は、その輸出量の過半が日本向け(例えば、タンザニアでは輸出のほぼ全量が日本向けです。)となっており、対日輸出に特化した国と言っても過言ではありません。最近では、パラグアイが日本からの技術移転によって日本向け輸出に特化したごま生産を拡大し、主要な供給国になりつつあります。

しかし、中国については、先に述べた生産の減少と輸入の拡大という状態に陥っていることから、輸入量は激減しています。2004年1~4月の累積輸入量は4,153トンで、昨年の2万2038トンにくらべ80%以上の減少となり、総輸入量に占める割合も40%から8%に低下しています。品質的にも安定していた中国産ごまが入手困難になったことは、日本のごま関連産業にとって大きい痛手です。
日本の輸入先国別ごま輸入の推移
spacer


■ 6 ■ 急騰するごまの国際価格

このような需給の逼迫は、価格の急激な上昇をもたらしています。日本食糧新聞社調べによる搾油用ごまの国際価格は、2002年にはトン当たり600ドル台にあったものが、2003年10月には850ドルとなり、その後も上昇を続けています。特に、中国産ごまの価格はこれを上回って上昇しています。昨年の4月にトン当たり726ドルであった輸入価格は、本年4月には1,456ドルと2倍に上昇しました(図1参照)。生産国が不安定で、情報が乏しいことから、価格の低下をもたらす要素は全く見あたらない実情にあります。このような価格の急上昇は、胡麻油、すり胡麻、練り胡麻など胡麻製品の製造コストを押し上げています。
中国産ごまの輸入価格の推移

これまで述べてきましたように、ごまの国際需給は一挙に逼迫に転じ、価格の急上昇をもたらしています。特に、日本にとっては、安定的な供給国であった中国からの供給が期待できないばかりか、中国と競争してごまを確保しなければならない状況になりました。 

今後も中国の需要が拡大し、国際市場で大量に購入する事態が進行すれば、ごまの確保にも赤信号の懸念が生じます。しかし、ごまと胡麻油は日本の食卓に欠くことのできない食品です。私どもは、商社の皆様の懸命な努力で必要数量を確保する努力を続けていますが、市場規模が小さい中で、輸出可能性を有する国の発掘にも努めなければならないと考えています。そして、価格がこのような急上昇し、低下する気配がないという実情にご理解をいただくことをお願い申し上げます。


0 件のコメント: