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2009年3月14日土曜日

さつまいもでん粉かすおよび廃液の有効利用

ALIC さつまいもでん粉かすおよび廃液の有効利用技術の開発
in でん粉情報

[2008年2月]

【試験・研究】
さつまいもでん粉かすおよび廃液の有効利用技術の開発
鹿児島県農産物加工研究指導センター
1 はじめに

鹿児島県のさつまいも生産量の約4割はでん粉原料用であり、でん粉製造過程で約3万トンのでん粉かすが発生しています。でん粉かすの約6割はクエン酸原料、畜産飼料として、約4割は堆肥原料、畑地還元等で利用されていますが、新たな用途開発による更なる有効活用が課題となっています。
また、でん粉原料用さつまいもについては、平成19年度から新たな経営安定対策の導入により、最低生産者価格(原料基準価格)が廃止され、市場の需給動向を反映した取引価格が形成される制度へ移行しました。新たな対策では、最大限の合理化を条件として、でん粉製造事業者への政策支援が行われることとなっており、でん粉工場の近代化やでん粉製造コストの低減が課題となっています。
一方、農林水産業や食品産業において多量に発生する未・低利用形態の副産物・廃棄物の有効利用を図るため、物理・化学的処理や生物的機能付加処理を用いて特性変換を行い、有用物質の抽出などの再資源化技術を開発し、バイオマスの多段階利用によるモデル構築とその経済面・環境面の評価を行うことを目的として、平成15~18年度に農林水産バイオリサイクル研究が実施されました。
鹿児島県農産物加工研究指導センターでは、有用物質の再資源化技術開発の一環として、でん粉かすの更なる有効活用や、これまで廃棄されていた廃液の有効活用による低コスト化と環境負荷軽減を図る「さつまいもでん粉かすおよび廃液の有効利用技術の開発」に取り組みました。本研究は、独立行政法人農業・食品産業技術研究機構九州沖縄農業研究センターから委託され、複数の民間企業と共同で実施しました。
ここでは、本研究に関するパイロットプラントにおける実証試験の結果について、その概要を紹介します。

2 研究目的

さつまいもでん粉かすや廃液には、β-アミラーゼや食物繊維が含まれている。
β-アミラーゼは、でん粉を分解し、麦芽糖をつくる酵素で、お菓子やパンなどに、硬くなるのを防ぐ老化防止剤として添加されるほか、食感改良やつなぎ剤、水分調整剤など様々な食品で利用されている。
食物繊維には整腸作用があり、生活習慣病予防などに効果がある。
今回の研究は、これらの有用成分を効率的に回収・利用するプロセスを開発することを目的としている。
β-アミラーゼは、でん粉廃液から回収することも可能だが、このままでは大量の水で薄まり、回収効率が悪くコスト高となることから、水を加えないででん粉とβ-アミラーゼと食物繊維を分離する「無水磨砕遠心脱水装置」を考案した。この装置は家庭用のジューサーを大型化したようなもので、これを組み入れたβ-アミラーゼ回収プロセスを検討した。
食物繊維については、生分解性の農業用資材への利用や食物繊維素材として利用するために、でん粉かすから搾りきれずにまだ残っているでん粉や不純物を除去するためのでん粉かす精製プロセスを検討した。

3 実証方法

鹿児島県内のでん粉工場の隣に実証プラントを設置した。
β-アミラーゼ回収ラインとして、前述した「無水磨砕遠心脱水装置」に加えて、得られた搾汁液中に混入しているでん粉を取り除いて分離液を回収する「磨砕汁でん粉分離装置」、液中に含まれるβ-アミラーゼ以外の蛋白質を沈殿させ、遠心分離で取り除く「変性蛋白分離装置」、液を濃縮して高濃度のβ-アミラーゼ液を回収する「酵素濃縮用限外ろ過膜装置」を設けた。
また、でん粉かす精製ラインとしては、でん粉かすに残っているでん粉を酵素で糖化して溶かす「糖化装置」、糖になったでん粉を洗い流す「でん粉かす精製装置」、精製したでん粉かすの余分な水分を落とす「かす脱水装置」、熱風で粉末状に乾燥する「気流乾燥装置」を設置した。そして、これらの装置の効率的な運転条件を明らかにするとともに装置の改良やラインの見直しを行った。
製造コストは、1日8時間当たり8トンのいもを処理するとして試算した。β-アミラーゼは、液状と粉末状の2種類の製品について、また、でん粉かすは、紙マルチやポット等の農業資材素材用に配合する「非精製かす」(一次乾燥かす)と食物繊維素材用の「精製かす」の製造コストについて試算した。これらは、生のでん粉かす(新鮮かす)や貯蔵したでん粉かす(貯留かす)、長期保存のために乾燥したでん粉かすなど、異なる原料を用いた場合で試算した。

4 実証結果

(1) β-アミラーゼ回収プロセスの構築

1) 装置の改良
当初設置した「無水磨砕遠心脱水装置」による搾汁率は、17%程度と予想より低い値となった。そこで、搾汁率向上のため、いもと磨砕歯の接触部分を拡大する改良を実施することで、表1に示すように搾汁率(でん粉を含む)が20%に向上した。さらに、「無水磨砕遠心脱水装置」の後に「かす脱水装置」での搾汁工程を挿入することで、磨砕物の粒子が細かくなり、搾汁率が50%に向上した。

2)β-アミラーゼ回収率の向上
β-アミラーゼの回収率向上の結果も表1に示す。原料いものβ-アミラーゼ量を100%とすると、「無水磨砕遠心脱水装置」のみの磨砕液のβ-アミラーゼ回収率49%に対して、「かす脱水装置」による圧搾液の回収率は32%で、無水磨砕と併せて81%となり、前述の改良によりβ-アミラーゼの回収率が向上した。

3)液状のβーアミラーゼ製剤
液状のβ-アミラーゼ製剤は、できるだけ澄んだ液が望まれる。そこで、液の清澄化について検討した。
表2に示すように、エタノール、炭酸カルシウム、防腐剤として安息香酸ナトリウムおよびソルビン酸カリウムを添加し、13日間常温貯蔵した結果、エタノール15%区を除いてpHは4.5前後に低下し、β-アミラーゼの失活は小さく、固液分離は促進され、ろ過状態が良好となった。なお、pHの低下は乳酸の蓄積によるもので、これまでの酸を添加するpH調製法に代わる有望な方法であると考えた。


4)粉末状のβ-アミラーゼ製剤
粉末状のβ-アミラーゼ製剤の供給形態を考慮し、濃縮液を乾燥でん粉かすに吸着させた粉末状のβ-アミラーゼ製剤を作製し、その酵素活性ができるだけ長く維持される方法について検討した。
表3に示すように、貯蔵温度が粉末状のβ-アミラーゼ製剤の酵素失活に及ぼす影響は大きく、35℃では急速に失活した。しかしながら、10℃貯蔵では180日後でも77~68%残存しており、酵素活性維持のためには、低温貯蔵の必要性が明らかになった。なお、本試験で製造した粉末状のβ-アミラーゼ製剤は、糖化メーカーからも市販品と遜色ないと評価された。


5)β-アミラーゼ回収プロセスと製造コスト
さつまいもから作られる液状のβ-アミラーゼ製剤は、図1に示すように、1)無水磨砕遠心脱水→2)かす脱水→3)磨砕汁でん粉分離→4)膜濃縮→5)変性蛋白分離プロセスで製造される。また、粉末状のβ-アミラーゼ製剤は、1)→2)→3)の工程後、でん粉かすに酵素濃縮液を吸着させた酵素製剤を乾燥させて製造することになる。当初計画からすると「かす脱水装置」と「乾燥装置」を追加することになったが、両装置とも本プロセスと同時に実施する「でん粉かすの精製」に使用する機材であり設備費増は生じない。

こうして製造した液状のβーアミラーゼ製剤の基となる粗酵素液の1リットル当たりのコストは、β-アミラーゼ活性の高い品種である九州140号を原料とした場合で367円、シロユタカでは917円となった。また、粉末状のβーアミラーゼ製剤の1キログラム当たりの製造コストは366円と試算された。これらは、酵素メーカーが望む製造コスト1,000円以下をクリアするものとなった。

(2) でん粉かす精製プロセスの構築

1) 糖化装置による効率的な糖の除去
まず、糖化に必要な酵素の添加量について検討した。その結果を表4に示す。 でん粉除去率は、酵素を添加しない区で67%、酵素標準量の1/2量区で77%、5倍量で79%と酵素の添加量の違いは糖化に大きな影響を与えなかったことから、糖化時の酵素添加量は標準量の1/2量で良いことが明らかになった。

次に、「糖化装置」で糖化して溶け出した糖をでん粉かすから除去するためには、「でん粉かす精製装置」でどの程度洗浄する必要があるかについて検討した。その結果を図2に示す。

約1m3の水による3回目の洗浄で洗浄廃液中のグルコース量が大幅に低下したことから、3回以上の洗浄が必要と考えられる。
2) 大量供給体制の検討
生分解性農業用資材への利用のための非精製かす(一次乾燥かす)や、食物繊維素材となる精製かすを大量供給し、コストを削減するためには、でん粉工場操業時期に排出される新鮮かすだけでなく、貯留かすを活用する必要がある。そこで、貯留かす利用の際、特に問題となる悪臭の防止について検討した。
その結果、表5に示すように、生でん粉かす60日貯蔵の吉草酸(悪臭の原因)は硫酸1.2Nレベルで大幅に減少し、硫酸の添加で貯留かすの悪臭は防止できることが明らかになった。

(3)でん粉かす精製プロセスと製造コスト

貯留かすは新鮮かすに比べて、脱水しにくく、そのために乾燥効率も新鮮かすの約70%にとどまったが、一次乾燥かすの1キログラム当たりの製造コストを試算したところ、新鮮かす(60日操業)使用場合の101円に対し、貯留かす併用(新鮮かす60日+貯留かす120日の計180日操業)の場合は78円となり、貯留かすも乾燥素材として十分利用できると判断した。
さつまいもでん粉かすから食物繊維素材となる精製かすは、図3に示すように、1)糖化→2)でん粉かす精製→3)かす脱水→4)乾燥ラインで製造される。このうち、1)糖化は加熱後冷却に一晩放置する必要があるため、これが作業効率の上でネックになる。しかしながら、この課題は、糖化槽を増やすことで解決できる。このようにして製造コストを試算すると、そのコストは糖化槽の数と原料かすの種類により異なり、新鮮かす使用で糖化槽1基では1キログラム当たり494円、貯留かす使用で糖化槽1基では275円、糖化槽2基では164円、一次乾燥かす使用で糖化槽1基では376円となった。

5 おわりに

構築したβ-アミラーゼ回収プロセスとでん粉かす精製プロセスを既設のでん粉工場に組み込んだ「さつまいもでん粉かす及び廃液の有効利用システム」の概念は図4に示すとおりである。
でん粉製造工程に本システムを取り入れることで、廃液からはでん粉製造に併せβ-アミラーゼ製剤や調味液などが、でん粉かすからは農業用資材や食物繊維が製造され、副産物のほとんどが有効活用され、いわゆるゼロエミッション化が図られることになる。
でん粉工場における1工場、1シーズン当たりで生じる廃液の処理費用は500~1,000万円、でん粉かす処理にかかる費用は200万円程度である。本システムの導入で、この費用が削減される上、でん粉かす、β-アミラーゼ製剤や食物繊維を製品素材としてメーカーに販売することで低コスト化と環境負荷軽減が図られる。
現在、この研究に参画した民間企業では、このシステムで製造されたβーアミラーゼ製剤を用いた酵素製品の開発、一次乾燥かすを利用した生分解性紙マルチや緑茶殻との複合抗菌性機能紙を用いた紙オムツの商品化、精製かすの健康食品素材としての食物繊維への利用に取り組んでいるところである。今後、新たな商品が開発されることで、でん粉製造残さの用途拡大がなされ、でん粉産業の活性化が期待される。


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