ポイント高知では、現金収入が得られる貴重な作物であるシシトウ。意外な方法でその病気を防ぐ方法がある。詳しくはリンク先をご覧ください。
月刊 現代農業4月号 野菜・花/追究! 病気を防ぐ根洗い "追究! 病気を防ぐ根洗い
たまげるほど
シシトウが成った
新潟県潟東村 岩野テルさん
「えー! そんなに根を出したら、枯れちゃうよー」
「ううん。思い切って根を出したほうが枯れなくなるのよ」
浅植えした後、株元の根っこを洗い出す「根洗い」が、お母さんたちにも好評だ。
ますます広がる根洗いだが、今回はそこで何が起こっているのか、失敗しないためにはどこに気をつけたらいいのか、などを探ってみました。
ここは新潟県の潟東村。稲作中心の兼業地帯である。お父さんのほとんどは勤めているので、ふだんの畑仕事はお母さんたちの役目だ。この辺りでは昔からシシトウ栽培が盛んで、現在、栽培農家は潟東村で20人、隣の巻町で19人、その隣の岩室村で13人ほどいる。
岩野テルさん(60歳)もそんな中の1人。お父さんの熊雄さん(62歳)は年じゅう勤めに出ているので、テルさんが1人でおよそ100本足らずのシシトウを栽培している。すでに栽培歴は20年にもなる大ベテランだ。
そんなテルさんがシシトウの立枯れと奮闘し、大成功をおさめている。
立枯れは毎年恒例だった テルさんは立枯れを防ぐため、イネの育苗ハウスとシシトウ専用ハウスの2つのハウスを持ち、毎年交互に場所を替えている。さらに、農協や普及センターの指導どおり、秋には土壌消毒をし、定植後には株元にリドミル粒剤をまいている。それでもシシトウは枯れた。
「4月に植えて、8月末ごろになるとバタバタと枯れてくる。最初は1本がくたーっとしてきて、それが次々と移っていって10日ぐらいして完全に枯れてしまう。株元をよく見ると黒くなってる」
「もう毎度のことで、おー始まった、今年は何本枯れるかなという感じ。そのせいで、本当は十月までとれるのに、そのまま8月いっぱいで終わっちゃう人もいるくらい」
こんな調子でシシトウの立枯れは毎年の恒例、最近はお母さんたちも、なかばあきらめ顔だったようだ。
立枯れ対策に根洗い しかし、テルさんは違った。
「枯れてスカスカになったハウスじゃみっともない。女はもうけがあるなしよりも、枯らさないことのほうが大事」
とにかく無事枯れず、最後までもってほしい――。その一心で、3年前、テルさんは村の肥料屋「新潟ハツタサービス商会」が開いた「シシトウ栽培講習会」に参加した。テルさんは、そのとき初めて、立枯れ対策に「根洗い」というやり方があることを知った。
根洗いとは、肥料メーカーのジャットなどがすすめている技術で、「深植えしないで浅植えをし、しばらくしてから、株元を根が出るまで洗い流す」というものだった(2001年4、9月号参照)。
講習会は、新潟ハツタサービスが(株)ジャットの代理店をしていたため、肥料を売るということもあったが、新潟ハツタサービスの社長である笹崎弘さんがその根洗いに惚れ込み、立枯れに悩むお母さんたちにぜひ広めたいという思いで開かれたものだった。
根を出すなんて、おっかない テルさんは根洗いの話を聞いて心が動いたが、その年は根洗いをしなかった。「根を出すなんて、おっかない」「逆に枯れてしまうのではないか」と心配だったし、何より根洗いのときの水に混ぜる肥料などにお金がかかるのがいやだった。
しかしテルさんは、あるハウスに植わっているシシトウが気になっていた。そこは「おっかながる」お母さんたちになんとか根洗いをやってもらおうと、笹崎さん自身が妹さんのハウスを使って根洗いの実験をしていたハウスだった。このシシトウが枯れていなかったのだ。
いくらかかるの?そこで、テルさんは笹崎さんに交渉した。
「根洗いをしてみたいんだけど、ランドライフとか肥料とか安くしてよ。金がかかるならしないよといったの。納得できる金額にならんとやらんぞって」
その結果、交渉の甲斐あって、ハツタサービスが除塩・土壌膨軟剤のランドライフを小分けして売ってくれることになり、根洗いにかかるお金はランドライフとダコニールでおよそ1回2000円ですむことになった。テルさんは、これで「やる気になった」。
2回の根洗いで、たまげるほど成った!
根が酸素欠乏で養分吸えない元気のない地上部に病原菌侵入樹が長持ちしない 酸素がいっぱいで根も地上部も元気病原菌がいても侵入しにくい
(図1)テルさんの根洗いのやり方
ハツタサービスの講習会を受けた翌年、今から2年前、テルさんは初めて根洗いをした(図1)。
定植は4月10日ごろ。これまで植え付けの深さを意識したことはなかったが、このときは浅植えを心掛けた。だが、植え穴は手を使わず穴開け器を使って掘るので、うまく浅植えできたかどうかわからなかった。とにかくその後、40~50日くらいたった日曜日、熊雄さんに手伝ってもらい、動噴で根を洗った。「植えてすぐ枯らすつもりか。やめれ、やめれ」と言う熊雄さんに、「枯れたらダイコンでも植えればいい」と押し切り、おっかなびっくり洗ってみた。しかし、やさしく洗ったので、実際は部分的にしか根は出なかったようだ。
それでもそのうち、部分的に出た根に日が当たると、そこが緑色に変わってくるのがわかった。そして、6月の初めごろから勢いよくシシトウが成りだした。出だし好調だった。
ところが、この年は雨の多い年だった。その後、大雨がふって、まる1日、ウネが水浸し。しかも水が引いて日が照ったと思ったら、シシトウが全部くたーっとなってきた。「これはいかん!」とテルさんは思い、今度は思い切って根を洗い出すように、もう1回、6月末に根洗いをしたのだった。
その結果、その後のシシトウは「たまげるほど成った、成った」。なんとその年は十月末までシシトウは1本も枯れず、成りつづけた。結局、60万円以上を売り上げ、農協から総売上賞までもらったのだった。
去年も根洗いは1回しただけだったが、やはり10月の末ごろになって少し枯れたぐらいですんだ。
そんなわけでテルさんのシシトウはここ2年枯れていない。しかも、成りもよくなったようだった。
根洗いは根の呼吸をよくする
地上部を元気にする
こんなに効果てきめんの根洗い、いったい何が起きているのだろうか。
テルさんはこんなことを言っている。
「根洗いすると、なぜか株元や根が大きく太ってくる。根が光に当たって強くなるんじゃないの」
テルさんにすすめた笹崎さんはこう言う。
「理屈はわかりませんが、私の経験から言っても、カキとモミジは、株元に土を盛ると枯れて、取り除くと元気になります。元気に育っている山の老木は根が出てるでしょ。あの理屈です」
その理屈とは、どんなものか。
植物の根はみな、土の中の水に溶けた酸素を吸っている。根も呼吸をしているのだ。ところが、この水や酸素が根のまわりに不足すると、根は呼吸ができなくなり、養分も十分に吸えなくなってしまう。
そう考えると、カキとモミジが株元に土を盛ると枯れるのは、根が酸素欠乏を起こして養分を吸えなくなってしまった結果であり、反対に土を取り除くと元気になるのは、根が呼吸しやすくなり、養分をよく吸収できるようになった結果とは見れないだろうか。元気に育っている山の老木は根が出ているのも筋が通る。
テルさんのシシトウが根洗いによって枯れなくなったのも、こんな理由とは考えられないだろうか(図2)。
図2
(図2)深植えしたシシトウと根洗いしたシシトウの生育の違い
根洗いするまでは深植えだったかもしれず、天候や土の状態により、根が呼吸しにくく養分も思うように吸えない環境におかれることが多かった。だから地上部も元気がない。そんなときには立枯れ性の病原菌が侵入しやすく、発病しやすかった。反対に、根洗いしてからは、天候や土の状態に関係なく、根が呼吸しやすく養分も十分に吸える環境におかれる。地上部は元気に育つため、病原菌がいても侵入を未然に防ぐことができる。
深植えが悪い理由 さらに、植え付けの深さとも関係がありそうだ。
茨城県波崎町のピーマン農家、長谷川裕之さんは、「深植えをすると、不定根(茎から出る根)が出る。不定根は浅根になりやすいし、リン酸・カリの吸収が悪い。だからチッソばかり吸収しやすく生育のバランスを崩しやすい」といい、浅植えをしている。
また、山形県村山市のスイカ農家、門脇栄悦さんは、「本来根の出る茎元からでなく、土に埋まった部分からならどこからでも出る不定根は上根にしかならない。上根が張ると初期生育はいいかもしれないけど、絶対に樹が長持ちしない。異常気象にもやられやすいし、夏の暑さを持ちこたえるのが大変だ。不定根を出させず、直下根をなるべく深く土の中へ入れることだ」といい、鉢上げのときに浅植えして、根を露出させる蕫根上がり育苗﨟をしている。
株元が土に埋まると出やすい根、不定根の存在も、地上部の調子を悪くさせる原因となっていそうだ。
1本枯れると7000円の損 さて、根洗いはもうけも増える。テルさんは「もうけより枯れないこと」というが、テルさんに根洗いをすすめた笹崎さんはいう。
「1本枯らすと7000円の損ですよ」
シシトウはひと株当たりだいたい3000果とれるといわれる。ひとパック30本入りが100パックとれ、ひとパックが70円平均だとして7000円なのである。まったくバカにならない。
だからこそ、一昨年のテルさんのシシトウの成りっぷりは噂を呼び、バスで視察者も訪れたという。隣の巻町でもお母さんたちが根洗いをしている。お母さんたちの間で根洗いは静かなブームになりつつある。